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英検の公式サイトの英語はネイティブにはどう映るのか

英検の公式サイトの英語はネイティブにはどう映るのか

直訳ほどスコアが高くなる問題

このブログでは、日本語の記事をAIで英訳し、その品質を往復翻訳で自動検証しています。英訳を日本語に戻して、元の文とどれだけ意味が近いかを embedding のコサイン類似度で測る仕組みです。

この方式には弱点があります。直訳調の英語ほどスコアが高くなりやすいのです。

原文の日本語を一言一句そのまま英語に置き換えた「直訳」は、日本語に戻したときも元の文に近くなる。意味の保持率は高い。でも、ネイティブが読んだら不自然で硬い英語 — そういう翻訳をこのスコアは「高品質」と判定してしまいます。

じゃあ、「文法は正しいけどネイティブ的にはビミョーな英語」って具体的にどんなものなのか。ちょうどいいネタを見つけました。英検の公式サイトです。

英検のサイトの英語、読んでみた

英検(実用英語技能検定)の英語版Webサイトを読んでみました。

文法的には正確です。スペルミスもない。内容も過不足なく書かれている。ただ、全体を通して「教育機関の公式文書」としてはごく標準的ではあるものの、現代的なWebサイトとしてはやや硬い印象を受けます。

これはダメな英語というわけではありません。むしろ、こういう英語が生まれる構造的な理由が興味深いです。そして、往復翻訳スコアではおそらく高評価になるタイプの英語でもあります。

具体的にどんな英語か

実際のサイトからいくつか引用してみます。

受動態中心の構文

EIKEN can be used as a language skills certificate for study abroad as it is recognized in approximately 400 universities and educational institutions in North America, Australia, and throughout the world.

1文に受動態が2つ("can be used", "is recognized")。主語は "EIKEN" ですが、誰が認めているのか、誰にとって使えるのかが見えません。"Over 400 universities worldwide accept EIKEN scores" のように能動態で書けば、読み手にもっとダイレクトに届きます。

ただし、これは英検に限った話ではなく、日本の公的機関のサイトではごく一般的な書き方でもあります。

情報を漏らさない一文主義

EIKEN is an abbreviation of Jitsuyo Eigo Gino Kentei (Test in Practical English Proficiency), one of the most widely used English-language testing programs in Japan.

EIKEN is produced and administered by the Eiken Foundation of Japan (formerly the Society for Testing English Proficiency, Inc.), a public-interest incorporated foundation based in Tokyo.

どの文も "EIKEN is..." で始まり、括弧補足を挟み、修飾節を重ねていく。1文に情報を漏れなく詰め込むスタイルです。読みやすさより正確性・網羅性を優先している。

これは翻訳が悪いのではなく、日本語版がそもそもそういう書き方だからでしょう。丁寧に情報を積み上げていく日本語の文章をそのまま英語にすると、こうなる。

制度説明のトーン

There are eight tests within the EIKEN framework, each representing a different ability level. The levels are called grades and are given on a pass-or-fail basis.

Group test sites (junkaijo in Japanese) are the approximately 18,000 junior high schools, high schools, colleges, and other institutions that have been approved to administer the EIKEN tests on an individual basis.

制度の仕組みを淡々と説明するトーンです。TOEFL や IELTS のサイトが "Prove your English skills to the world" のようにベネフィットを前面に出すのとは対照的ですが、英検のサイトは利用ガイドとしての役割を重視しているのだと思います。目的が違えばトーンも変わる。

なぜこういう英語になるのか

英検のサイトの英語を「ダメだ」と断じるのは簡単ですが、こうなる構造的な理由を考える方が建設的ですね。

日本語版が先にある

英検のサイトには日本語版があり、英語版はその翻訳です。業務として英語版を作る場合、日本語の内容を「すべて」「そのまま」英語にする必要がある。

日本の組織では「日本語にある表現が英語にない=情報の欠落」と見なされる傾向があり、翻訳者は板挟みになりがちです。

  • 正確性の優先: 意訳して読みやすくしても、校閲で「原文のこの部分が英語にない」と差し戻される
  • リスク回避: 言葉を削ると「勝手に内容を変えた」と見なされるため、冗長でも「一言一句漏らさない」のが安全策になる
  • 公的機関の体裁: 文部科学省の枠組みと連動しており、規約に近い「公用文」の体裁を崩しにくい

これは英検の翻訳者の能力の問題ではなく、組織が翻訳に求めるものの問題です。「正確性」と「読みやすさ」のどちらを優先するか、その判断基準が日本語側に寄っている。

真逆の例:映画の字幕翻訳

同じ「日本語→英語」の翻訳でも、映画やアニメの英語字幕は正反対のアプローチを取ります。

字幕は画面に表示できる文字数と時間に厳しい制約があるため、原文の情報を「漏らさない」ことよりも、短い文で意味がダイレクトに伝わることが最優先されます。ニュアンスが多少ズレても、その瞬間に観客が理解できなければ意味がない。

たとえば、日本語の丁寧な敬語表現や回りくどい言い回しは、英語字幕では容赦なく刈り込まれます。情報量は減りますが、英語としては圧倒的に自然で読みやすい。

英検のサイトと字幕翻訳を並べると、翻訳の「良し悪し」は目的次第だということがよく分かります。そして、往復翻訳スコアで測ったら、おそらく字幕翻訳の方がスコアは低くなる。情報を削っている分、日本語に戻したときに元の文から離れるからです。でもネイティブにとっては字幕の方がはるかに自然。

スコアが高い方が良い翻訳とは限らない — この記事で繰り返し出てくるテーマが、ここでも顔を出します。

「お手本」ではなく「パンフレット」

英検のサイトは、英語のお手本を見せる場所ではなく、試験の仕組みを説明するパンフレットです。ケンブリッジ英検やIELTSのサイトと比べて硬いのは事実ですが、あちらはおそらく最初から英語で書かれているのに対し、英検は日本語の制度を英語に変換しているという根本的な違いがあります。

同じ土俵で比較すること自体がやや不公平かもしれません。

往復翻訳スコアとの関係

ここで最初の話に戻ります。

英検のサイトの英語は、原文(日本語)の構造を忠実に保持しています。受動態が多いのも、一文が長いのも、情報を漏らさないのも、すべて「日本語の内容を正確に伝える」ことを最優先した結果です。

つまり、意味の保持率は高い。往復翻訳で日本語に戻せば、元の日本語にかなり近い文が出てくるはずです。

一方、IELTS のサイトのように情報を削ってベネフィットを強調する書き方は、ネイティブには読みやすくても、日本語に戻したときに元の文から離れてしまう。スコアは下がる。

「スコアが高い=良い英語」ではない。 これは往復翻訳スコアの構造的な限界であり、このブログの翻訳パイプラインが今後向き合うべき課題です。

日本語と英語の「良い文章」は構造が違う

英検のサイトの英語が硬いのは、日本の英語教育の問題とも無関係ではありません。

日本語は情報を丁寧に積み上げて、最後に結論を述べる構造が自然です。一方、英語は結論を先に述べて、補足情報を後から付け加える。日本語の構造をそのまま英語に移すと、英語としては回りくどくなる。

1963年の創設から半世紀以上、英検は日本の英語教育において圧倒的な存在感を持ってきました。その公式サイトの英語が「日本語の構造をそのまま写した英語」になっているのは、ある意味で日本の英語教育の現在地を映し出しているとも言えます。

試験の中身自体はライティング強化や新級の新設など着実に現代化しているのに、玄関口であるサイトの英語が追いついていないのはもったいない話です。ただ、制度を英語に「翻訳」している以上、構造的にはこうなりやすい。これを変えるには、翻訳の品質を上げるだけでなく、英語版を英語の論理で書き直すという判断が必要になります。

自分のパイプラインへの示唆

英検のサイトの英語を見て改めて感じたのは、往復翻訳スコアだけで翻訳品質を測ることの限界です。

  • スコアが高い=原文の意味が保持されている。でもネイティブにとって自然かどうかは分からない
  • スコアが低い=原文から意味がズレている。でも意訳で自然になっている可能性もある

このブログの翻訳パイプラインには、スコアとは直交する「ネイティブ感」を評価する仕組みが必要です。往復翻訳スコアは「検算」としては有効でも、「採点」としては不完全。英検のサイトは、その不完全さを具体的に示してくれる良い題材でした。